このサイトは、「しねきゃぷしょん」のフォントを設定してあります。
しねきゃぷしょん」のDLは以下のページからどうぞ。
窓の杜(無料)

2003年05月31日

プロフィール_C-side


菊池しおん –Kikuchi, Sion-
誕生日:1984年9月28日
血液型:O型
身長/体重:171cm/59kg
スリーサイズ:92(D)/62/80
好きな花(花言葉):紫苑(あなたを忘れない)
恋人(昂)を失ってから心の整理をするため学校を休み留年する。学校は全寮制だが昂が住んでいたアパートの契約を引き継いでおり、たまに帰省届けを出してはそっちで暮らしている。2年前命を救ってくれた須坂には頭が上がらない。

伊織小羽 –Iori, Kohane-
誕生日:1986年2月10日
血液型:B型
身長/体重:158cm/48kg
スリーサイズ:82(B)/59/83
好きな花(花言葉):ギンモクセイ(高潔)
しおんの恋人であった七門昂の妹。両親の離婚問題などで日々の生活に嫌気がさし夜遊びが続く。これまで兄の死と向き合うことはしなかったが、離婚成立後は転校することになり、街を離れる前にしおんに会う決意をする。

須坂弘一 –Susaka, Kouichi-
誕生日:1975年9月24日
血液型:O型
昂の死のショックで自殺しかけたしおんを救った元刑事。死に際の昂と交わした約束からしおんを気に掛けている。今は刑事を辞め検事になるために勉強中。少なからずしおんに惚れているがまったく脈がない。

七門昂 –Nanakado, Kou-
誕生日:1978年6月1日
血液型:B型
故人。街角で襲われ掛けていたしおんを助けたことを切欠に付き合い始める。正義感が強く、通り魔から子供を庇ったことで自身は命を落とす。享年23。しおんと付き合い始めた頃大学生で、しおんはまだ中学生。しおんは当時からわがままボディではあったがこれではロリコンと言われても仕方が無い。

坂本泉水 –Sakamoto, Izumi-
誕生日:1988年1月22日
血液型:B型

No-data...


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2002年10月31日

プロフィール_D-side


中岡麻耶 –Nakaoka, Maya-
誕生日:1983年8月4日
血液型:O型
身長/体重:165cm/58kg
スリーサイズ:86(C)/63/85
好きな花(花言葉):リンドウ(哀しむあなたに恋をする)
子供の頃から誠に好意を抱いている麻子の姉。誠の初めてを色々と無理矢理奪ったことがあり、彼からは苦手意識を持たれている。麻子の「ぼく」という一人称は姉ゆずり。

坂本誠 –Sakamoto, Makoto-
誕生日:1986年4月29日
血液型:A型
身長/体重:170cm/55kg
麻子に振られてから、親身に相談に乗ってくれた沙季に恋するがまたも撃沈。結局季沙と付き合うことになったが、幾年の度重なる麻耶さんのアプローチをものともしないとは……。

坂本泉水 –Sakamoto, Izumi-
誕生日:1988年1月22日
血液型:B型
身長/体重:162cm/51kg
スリーサイズ:86(D)/58/82
好きな花(花言葉):ネメシア(偽りなきこと)
麻子とはお互いに悩みを打ち明ける間柄。将来は漫画家になるのが夢で目下修行中。男性が苦手だが嫌いではない。理想像は兄で、最近赴任してきた美術教師にその姿を重ねている。


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プロフィール_B-side


浅野季沙 –Asano, Kisa-
誕生日:1986年5月23日
血液型:A型
身長/体重:168cm/56kg
スリーサイズ:83(B)/59/83
好きな花(花言葉):瑠璃雛菊(恵まれた幸福)
坂本誠に一目惚れして、最近付き合い始めた。学級委員長をずっと続けているけど、変なところで恥ずかしがり屋な一面が出る。家の中ではジャージに眼鏡。洋楽聴くのが趣味。

中岡麻子 –Nakaoka, Mako-
誕生日:1987年12月4日
血液型:A型
身長/体重:160cm/48kg
スリーサイズ:80(A)/57/79
好きな花(花言葉):桜(優美・ごまかし)
3年前に父親のドイツ出張に同伴し留学。高校進学に合わせ単身帰国した。誠から告白されるもそれは自分の望む関係ではないと袖にしたことに些かの罪悪感を覚えている。

浅野沙季 –Asano, Saki-
誕生日:1986年5月23日
血液型:A型
身長/体重:166cm/54kg
スリーサイズ:85(C)/59/83
好きな花(花言葉):イキシア(秘めたる恋)
季沙の双子の姉。とあることから父親を憎み、男嫌いになる。季沙に対しては妹以上の感情を抱いているが表には出していない。季沙が付き合い始めてから長かった髪をバッサリと切り落とす。私服は季沙よりも女子らしい装い。

斎藤紗羅 –Saito, Sarah-
誕生日:1986年6月6日
血液型:AB型
身長/体重:170cm/55kg
スリーサイズ:87(C)/58/83
好きな花(花言葉):夏椿(愛おしさ)
商社社長の娘で才色兼備。生徒会書記を務め人望も厚い。一方で妹の三葵と幼なじみの佐々愼にベタ惚れしている一面も持つ。浅野姉妹とも付き合いが長く、沙季の秘密も知っている。

斎藤三葵 –Saito, Mitsuki-
誕生日:1991年2月11日
血液型:O型
身長/体重:150cm/42kg
スリーサイズ:78(C)/54/79
好きな花(花言葉):サボテン(情熱・風刺)
紗羅の妹。斎藤邸裏山頂上にある稲葉神社の管理人代行。学校では「お嬢」と呼ばれているがあまり快く思っていない。ちなみに紗羅のことはベタ付いて きもちわるい らしい。


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2002年10月24日

告白。 # False Love "Late.10.2002"

―・Saki Asano・―
 「沙季、話があるんだけど、いいかな。」
 放課後。早く帰りたい足で昇降口とは逆方向に階段を上り、呼び出された先の屋上へ向かった。夏を過ぎるとここで弁当を食べる生徒も減るせいか、ただでさえ重たい鉄の扉の蝶つがいは油が切れていて、メンテナンスもされていないようだった。
 秋口の寒空の下に出ると、そこには誰もおらず、つまり呼び主もまだ来ていない。仕方が無いからベンチに座って待つとする。
 「ふぅ。」
 今日は半ドン。まだ太陽は高いけれど、さすがにこの季節だと少し肌寒い。
 「あー、そろそろ私服も冬もの準備しないとなー。」
 なんて考えていると、風といっしょに吹奏楽部の演奏が聞こえてきた。
 「季沙は今頃部活か。」
 来週は定期演奏会だから、練習には夏の大会の頃と同じくらい気合いが入っている。三年生はこれが最後の舞台だから、なお一層だろう。曲は今年の大会の自由曲だ。夏にいっぱい練習していたから覚えている。確か主人公が過去にタイムトラベルするというストーリーだったはず。
 タイムトラベルか。もしできたらあたしは何をしたいだろう。お母さんの死に目に、アイツと会わせてあげたい?アイツに、季沙をもっと大事にするように言ってやりたい?
 「…………。なんでアイツのことばっかり。」
 あたしは。あたし自身は?
 季沙に、素直になれたらとよく考える。でもそれは、やっぱり季沙を傷つけると思う。あたしはあたしの気持ちに気付くのが遅すぎた。たまに、もっと早く気付いたとして、季沙にもそれを打ち明けていたらと想像する。季沙は、どう返事してくれるんだろう。そしていつも、あたしの心の中の季沙は、戸惑いの表情を浮かべて、最後には「ごめん」と言う。
 季沙が知るあたしは、浅野沙季で、双子で、姉で、親友。それ以上でも、それ以下でもない。
 「はぁ。やめよ。」
 無駄な思考トラベルからの帰還。さっきの曲は中盤にさしかかり、オーボエのソロが届いていた。
 序盤のインパクトある合奏から中盤は一転して静けさの旋律。終盤には前半の力強さを再び奏でて、壮大なエンディング。なーんて。音楽にはあまり詳しくないんだけど。でも、演奏している彼女たちの熱意はよく伝わってくる。何よりも、季沙はいつも楽しんで演奏している。それを見てると、本当にこっちまで気分が晴れて、とても心地良い。
 そういえばこのソロ、中等部では坂本妹が担当しているんだっけ。
 「で、その兄貴はいつになったら来るのかね。」
 嫌みのひとつふたつ、今からでも考えておこう。

 吹奏楽部の通し練習の何曲目かを聞き終わり、うたた寝しそうになっていたところ漸く呼び出しの主がやって来た。
 「ごめん。待たせたか?これ、お詫びに。」
 「ざっと二・三十分。……お礼は言わないからね。」
 寒空の下で待たされた恨み辛みを罵声と共に浴びせてやろうかと思っていたけど、温かい缶コーヒーを先に手渡されたらまあいいかと思ってしまった。安くなったな、あたしも。
 「ごめん。急に先生に呼ばれて仕事押しつけられたから。連絡入れられたらよかったんだけど携帯持たずに教室でたから……。」
 「いいよ。それより話って?」
 「ああ。……となり、座っていいか?」
 「悪いがのび太くん、こいつは一人用なんだ。」
 真ん中に陣取った位置で更に両腕を拡げる。スネ夫というよりはジャイアンだな。
 あたしはベンチから動くつもりはない。話を聞いてやる立場なんだから、足を組んで偉そうにふんぞり返ってようが別に構うものか。せめてこれくらいの仕返しはしてやってもいいだろう。
 「誰がのび太だよ。じゃあまぁいいや。そのまま聞いてくれ。」
 「だから何さ。」
 「俺、この数ヵ月お前たち三人とよく行動してただろ?それで気付いたんだ。麻子にフラれて、こんなこともう当分無いだろうって思ってたんだけど、でも俺……。」
 ああそうか。こんなところに呼び出されたことで、なんとなくそんな予感はしてたけど、やっと報われるのか、季沙の初恋が。なんだか、嬉しくもあり、寂しくもあるな。あたしも手を尽くしてきた甲斐が――
 「俺、沙季のことが好きだ。」
 「は?」
 待て。なんて言った?
 「もっと早く気付くべきだったよな。季沙の振りをして俺に会ったり、」
 違う。
 「季沙とは委員長同士の付き合いがあるから、それで季沙が引き合わせようとして、三人で出掛けたりしてたんだよな。」
 違う。違う!
 「俺、麻子のことで相談に乗ってくれた時から少しずつ気になってたんだ。」
 違う!あたしが望んでいたのは、こんなものじゃない!
 「一緒に行動してる内に、お前といるのが楽しいって思えてきて、それが麻子に抱いていた気持ちと同じなんだって気付いたんだ。」
 全て無駄だったのか。
 全て裏目に出たというのか、あたしの行動が。
 ああなんだったか。タイムトラベル?あたしはこの男に関わるべきじゃなかった。季沙にアドバイスをするだけに留めていればよかった。
 最悪の展開だ。こんな展開は想定していなかった。どうしてこうなってしまった。どうなってしまうんだ、これから。
 これは季沙の意にも叛している。
 裏切ってしまうのか。あたしが?季沙を。
 「ヤダ。」
 あたしが、季沙を、裏切るわけには、いかない。そんな、嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だいやだいやだイヤだイヤだイヤだイヤだ!!
 あたしはアイツとは同じになりたくない!季沙を裏切りたくない!季沙に嫌われたくない!!そんなのは絶対にイヤだ!!
 「沙季、どうしたんだよ?頭痛いのか?保健室行くか?」
 「あたし………だ。あたしの……せ…だ。あたしの……せいだ。あたしが……アンタに……。」
 「沙季?」
 「なんなんだよ。なんでなんだよ。なんであたしなんだよ。季沙じゃダメなのかよ。なんで、なんで、なんであたしなんか好きになってんのさ。ワケ分かんねーよ。」
 「さっきも言ったけど、沙季は俺に対して親身に接してくれたしさ。季沙もそうだったけど、委員長仲間っていうか。季沙とは友だちみたいな印象なんだよ。」
 「バカじゃないの。そんなの関係ないし。あたしがアンタに関わったのはただ、季沙のためだ。それ以外に理由なんかねーよ。」
 「季沙の?」
 ――がっ
 「痛ッ!何すんだいきなり!」
 「脛蹴りだこの唐変木!!とんだ勘違いヤローだよアンタは!」
 「何が!」
 「……ッ!だぁかぁらぁああぁ!!」
 本当は、これだけは言いたくなかった。本来こいつに気付かせるべきだったこの事実。あわよくば季沙本人の口から初めて伝えるべきこの真実。だが、こうなってはもうあたしが伝えざるを得ない。このバカに示さねばならない。言わずにはいられない。
 「季沙はね、アンタのことが好きなの!だからあたしは好きでもないアンタと中継ぎで会話してたし、季沙がアンタと一緒に行きたいと思った所にあたしも付いて行った!それだけなの!あたしはアンタのこと、むしろ嫌いなくらいなんだから!なんでそれに気付かないの!なんであたしなの!同じ顔じゃない!なんであたしなんか好きになってんだよ!!?あんだけ近くにいて、そんな勘違いが出来て、なんであの子の気持ちに気付かないんだよ!!」
 「……ごめん。」
 「ほら、そうやってすぐに謝る。だから嫌いなんだ、アンタなんか。」

 叫んでからしばらくして冷静になると、周りの音が耳に入ってきた。運動部の掛け声。演劇部の発声練習。吹奏楽部の合奏練習が終わったのも、ちょうどその頃だった。
 「分かってると思うけど。今あたしが言ったこと、アンタがあたしを好きだってこと、絶対に季沙には言うなよ。」
 「分かってるよ。」
 「あたしには季沙だけなんだ。あの子の幸せを一番に願ってる。あの子の泣き顔だけは、もう見たくない。もう泣かせないってあたしは決めてるんだ。」
 「……それって、お前たちの父親のことか?」
 「っ!季沙が話したの?」
 「ああ。」
 「そうなんだ。あの子の中の最大のトラウマなのに。それだけ心を許してるのに、アンタはそれに気付かないとか。ほんとどうかしてるよ。」
 「……。」
 「帰る。」
 立ち上がって、あたしは初めてまともに、この坂本誠という男の顔を見た。確かに、パーツの造形は悪くない。相対的に見れば十分モテる部類には入るんだろう。季沙が惚れるのも道理というわけか。あたしはちっともときめかないけど。
 でも、じっとまじまじと見ていたせいか。少し顔を赤くしてたじろぐ男の目をそれでも放さず、あたしは言った。
 「近い内にさ、あの子、アンタに告白するつもりだから、聞いてやってくれないかな。」
 「それは、でも……。」
 「後生だよ。」
 ああ。季沙が知ったら、嫌われるな。
 「あの子と付き合って欲しい。あの子を泣かせないで欲しい。あたしはあの子が笑顔になるためだったらなんだってする。だからこうやって、大嫌いなアンタにも頭を下げてお願いもする。手前勝手なのは分かってる。今のあたしは、季沙の気持ちを無視してる。裏切ってる。でも駄目なんだ。あたしじゃもう駄目なんだ。どんなに努力しても、どんなに尽くしても、あたしじゃあの子の光になってあげられなかった。これはアンタにしかできないんだ。アンタがあの子の気持ちさえ受け入れてくれれば、あの子の願いが叶うんだ。だから、どうかッ!」
 「お前はそれでいいのか?」
 「……え?」
 「俺がそうしたとして、俺が好きになったのは沙季だ。そりゃ、季沙も確かに良い奴だけど、やっぱり友だちの域を今はまだ出てない。そんな俺があいつと付き合っても、幸せにしてやるなんて無理だと思うんだ。それは、お前の望む形じゃないだろう。」
 「それは、付き合ってから好きになってくれれば。」
 「そうなる保証はないし、もし別れたら、結局は同じことだろう。」
 「どうしても、ダメなのか?」
 「お前が俺に対して脈が全くないってのは、もう分かったよ。それは諦める。でもお前、季沙に執着しすぎてないか?いくらあいつを泣かせたくないからって、無理にでも付き合わせようとするか?季沙の為って言ってるけど、お前は、俺があいつの希望を聞くことでお前の願望を俺に叶えて欲しいんじゃないか?」
 「……。」
 ああ、その通りだ。あたしは、季沙の笑顔が見たかった。だけど、あたしには出来なかったから、あの子の笑顔を見るために、こいつを利用してただけだ。
 「バカ。なんでそんなとこだけ鋭いんだよ。」
 結局、これがあたしの受ける酬いか。
 「確かにね、そう。欺瞞だよ。エゴだよ。でもさ、だからってね。ほら、たった一人の家族だもん。幸せを願うのは当然ってもんでしょ。」
 「そりゃそうかもしれないけど。」
 「あんたさ、キスしたことあんの?」
 「は!?なんだよ藪から棒に。」
 「あんの?ないの?」
 「……ある、けど。でもいまそんなこと関係ないだろ。」
 「そうか、それを聞いて安心した。」
 「……ッ!?」
 対面する肩に両手を乗せ背伸びをする。誰ともしたことのない、初めての感触。少しだけ歯が当たって痛かったけど、すぐに体勢を整え直して口をふさいだ。顔は見たくない。目尻にしわが出来るほど思いっきり目をつむって、息も止めた。
 気持ち悪い。欧米人はこんなものを挨拶代わりにしているのか。日本人に生まれて良かった。
 「ぷはっ。」
 「おああわああお前!」
 「……乙女のファーストキスと交換条件だよ。グダグダ言わない!これでもう、嫌とは言わせない。」
 「おまえ、涙……。」
 そう。それはあたしの恋が終わったことを自覚したがゆえに。これがあたしの、あたしに対する罰だ。
 「あー!泣く程いやだった!!きもちわるい。口ゆすいでこよ!」
 誤魔化すように、足早に階段の方へ向かう。これ以上は堪えられない。
 「沙季!」
 振り返らず立ち止まる。涙であふれた姿を、彼には見られたくない。
 「お前の覚悟は分かった。でも、確約はできない。だけど努力する。季沙は泣かせない。」
 「バカっ。ありがとう。」
 教室に戻ると、そこには幼なじみがいて、まるであたしを待っていたかのように手を振ってきた。
 「おつかれさま。」
 その優しい言葉はいまのあたしにはあまりにも辛辣で、気付けばもう涙が止まらなくて。泣いて、泣いて、ただひたすらに彼女の胸に抱かれながら泣き続けることしか出来なかった。

*


 「好きです。初めて教室で会った時から、ずっと好きでした!」
 「俺も、少し前からだけど、季沙のこと気になってた。」
 「え?えっと、ほんとに?」
 「ああ。だから、うん。うれしいよ。」
 「じゃ、じゃあ。その、付き合って、くれるの?」
 「俺でよければ。」
 「よ、よかったぁ。」
 それは紛れもない。彼女の心底からの笑顔。自分が守れなかった笑顔。自分が取り返せなかった笑顔。
 「こっ、これからもよろしくね、坂本くん。」
 「うん。よろしく。」
 「……。」
 「……。」
 「えっと、じゃあ、そろそろ帰らなきゃ。姉さん待たせてるから。」
 「そうなの?」
 「ごめんね。告白するのにいっぱいいっぱいで、今日の私の勇気はここまでなのです。今日送ってもらったら、わたし心臓鳴りすぎて倒れちゃうかも。」
 「そっか。じゃあ、またあした。」
 「うん。また、あした。」

 「おかえり。」
 「姉さん、わたし、笑えてたかな。」
 「うん。良い笑顔だったよ。輝いてた。」
 「いまも、笑えてるかな。」
 「うん。もうぼろぼろだよ。」
 そう、彼の元を離れてから緊張の無表情で、あたしに気付いた途端それが解けたのか、うれし泣きで、彼女の表情は瞬く間に崩れていった。
 「ふえーん!よかったぁ!よかったよぉ!!ドキドキしたぁ!でも、坂本くんも私のこと、好きって言ってくれたぁー。」
 たとえ喜びからきたものだとしても、やっぱり、あなたが私に見せるのは涙なんだね。
 誰よりもあなたの側に居て、誰よりもあなたを想い、誰よりもあなたに振り向いてもらおうと努力しても、私が得たのはあなたを失う空虚感。
 でも、あたしはそれでも満足している。あなたの幸せがあたしの幸せだから。彼ならあなたを満たしてくれる。だったら、あたしはもう何もいらないから。
 「うん。よかったね。よくがんばった。」
 ああ、あたしはいま、笑えているんだろうか。


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2002年04月30日

苦い想い出 # Was Coffee bitter taste? "30.04.2002"

―・Saki Asano・―
 商店街から少し離れた閑散とした通りに、周囲の建物とはアンマッチなゴシック調の風貌をした喫茶店がある。お気に入りのそのお店であたしはいつも通りのコーヒーをふたつ注文した。ひとつは自分の分。もうひとつは連れだって入ったコイツの分だ。
 程なくしてこの店のマスターでありウエイトレスのクロエさんがカップをテーブルに運んできた。
 「カレシ?」
 「そんなわけないじゃないですかあ。」
 「そうだよねー。あははははは。」
 クロエさんとは自分のことをいろいろ話しているくらい親しい間柄で、たまにこうやってジョークを挟んでくる。
 「今日は一杯分サービスしておくわ。ワタシからのおごり。」
 「ありがとうございまーす。」
 さっそく一口いただく。うん、やっぱりおいしい。因みにあたしは砂糖もミルクも入れない。ブラックでそのままコーヒーの風味を愉しむのが一番おいしいからだ。
 「さて。で、話ってなんなんさ?」
 こういうしゃれた場所に慣れていないのか、さっきから一言も喋っていない目の前のヤツに問いを投げる。
 しばらく考え込み何かを言おうとしては口をつぐむ。なかなか踏ん切りが付かない様子でとりあえずその場を誤魔化すようにカップに口を付けると、やや顔をしかめた。どうやらコイツはブラックが苦手なようだ。
 「……あのさ、」
 そっとカップを戻すと、ヤツはやっと口を開いた。


 「姉さん!」
 昼休み。紗羅とこれから弁当を食べようと向かい合ったところで隣のクラスから妹が飛び込んできた。
 「どうしたん?そんな慌てふためいて季沙らしくない。」
 「あの、ちょっといい?できれば二人で。」
 「えー、あたしこれからおべんとー。」
 「ごめん紗羅、姉さん借りてくね。」
 「いってらっしゃい。待ってるわ。」
 「そんなー、たーすーけーてーよー。」
 有無を言わさず腕を引っ張り教室を出る妹と表面だけの笑顔を振りまき手を振る幼なじみ。救いの手なんてどこにもなかった。
 「でー?なんなんさー。おなかへったー。」
 お昼の食事時になぜか特別棟にいるあたしたち。特別棟とは特別教室が設置されている校舎で、つまり今の時間帯は誰も寄りつくことがない。
 「あのね、坂本くんに呼び出されちゃった!」
 「はぁ?」
 ぱーどぅん?わっでぃっじゅーせい?
 「なんて?」
 「坂本くんが、放課後にちょっと話したいことがあるんだけど、って……。」
 「なんで?」
 「分からない。でも、どうしよう?」
 どうしようも何も、そりゃ字面だけ見て思い付くのは告白とかそういうシチュエーションだけど、しかし昨日の今日だ。昨日、ヤツは幼なじみであるところの中岡麻子と連れ添い、そらもー仲の良い印象をこちとらに見せ付けてくれた。となると、別の案件か。
 「どうしようってもなー。季沙はどうしたの?訊かれた時、なんて答えたんさ。」
 「時間空いてる?とも聞かれたから、ちょっと分からないから後で確認してみるって、保留中。」
 「うーん。ちょっとでも内容を聞いてたりはしないんだよね?」
 肯定の季沙。
 行けば?と言うのは簡単だ。でもどうだろう。アタリかハズレか分からない博打でもある。或いはチャンスかも知れない。うーむ。
 「ねえ、チャンスかな、これって。だけどやっぱりちょっと怖いな。」
 季沙も同じ考えらしい。ハイリスクなくせに、その先の分岐がハイリターンかノーリターンかの違い。難題この上ない。
 「あ、そうだ」
 何か思い付いたらしい。
 「もしよかったら姉さん代わりに行ってくれない?」
 「は?」
 ちょっと待て、なんだと?
 「昔よくやってたじゃない、お互いの髪型を変えてクラス入れ替わったり。紗羅にはバレちゃうけど、姉さんは坂本くんとは昨日初めて会ったばかりだし、大丈夫だよきっと。」
 いや、既にそれをやって見破られてるのだよ。とは言えない。
 「も、もしこっ、告白とかされたら、どーすんのさっ。」
 「その時は……、正体バラして私に言ってくれれば……。」
 「アホか。あんた、自分への告白自分で聞かないでどーすんのさ。」
 「で、でも、昨日の子のこともあるし、それはあまり、考えられない、と、思う。」
 だんだんと小さくなっていく声。確かにそれはさっきあたしが行き着いた解答だ。向こうから告白の線はない。だのに安心して挑めないというのは、恐らく中岡麻子に関する相談を持ち掛けられた場合だろう。季沙なら、堪えられない。
 でも問題は他にもある。あたしと季沙の違いを、ヤツは看破していると言うことだ。でも季沙はそれを知らない。この子にとって、頼みの綱はあたしだけなんだ。
 「わーった。やってみるよ。」
 「いいの?」
 「その代わり、もしチャンスがあってもあたしは告んないかんね!それは自分でやんな。」
 「うん。ありがとう、姉さん。」
 心の底から感謝の念が伝わる笑顔。同じ顔のハズなのに、あたしには到底マネ出来ない、そんな表情。
 なんでこの子は、そんな笑顔をあたしに見せるんだろう。その笑顔が、あたしには眩しすぎて、痛すぎるというのに。


 放課後、あたし達は一度トイレで落ち合って髪型を変え、クラス章とカバン、携帯電話などの小物類を取り替え、昇降口で別れた。このあと、季沙は商店街で夕食の買い物をしてから帰宅。あたしは男と密会と、そういう寸法だ。……笑えない。
 季沙に指示された場所に向かうと、そこには既に坂本誠が待っていた。
 「やあ。悪いな、呼び出して。」
 なんとも張りのない声だった。今日一日こんな調子だったのか、コイツ?
 「ううん。」
 それはともかく。この前、季沙より声がやや低いと指摘されたので、意識してやや高めの声を作り答える。極力会話はせず、短い言葉だけ発すれば、簡単にはバレないだろう。
 「ただ呼び出しておいてあれなんだけど、あまりここら辺詳しくなくて。どこかファストフード店とかある?」
 ジャンクはあまり食べないから思い付かないな。……男とふたりでってのはちょっと気が引けるけど、あそこにするか。あそこなら目立つこともないし、マスターの口も固いし。
 「こっち。」
 指をさし先導する形で前に出た。くそー、なんでこんなに緊張するんだよ。クラスとりかえっこの時だってもっとお気楽だったのに!
 二十分程歩いてようやく目的地に着いた。実際の体感時間はもっと長かったけど、時計は嘘をつかない。
 学校からここまで、途中の商店街を避けて通ると、喧騒から離れた静かな住宅街がある。和式の古風な家屋だったり新築の分譲マンションがあったりとそこに統一性はないが、中でもひときわ目を引く煉瓦造りの喫茶店がある。目立っているのに、だけどそこにあっても全然違和感がなく、矛盾した表現だけどそこにあるのが自然で当たり前のように溶け込んでいる、そんな不思議なお店。水出しコーヒーがおいしく、初めて来た時にすぐに気に入ってしまった。が、いつ入ってもお客は少なく、マスター曰くこれが普通らしい。常連の身としては経営状況が気になるところだけど、他にも収入はあるからご心配なくとのことだった。
 「ここ。」
 道中の会話をなるべく抑え、生返事で尽くしてきた甲斐ありなんとかバレずに済んだが、さて、これからどうしよう。本格的に話をするとなると、声が保つかどうか。
 「浅野さあ、ちょっといい?」
 「?」
 振り向くと当然坂本誠がいるわけだが、その表情はどこか変だった。これから相談を持ち掛けるというにはさっぱりしているような、少なくとも学校で見た陰鬱なものではなかった。
 「違ったらごめん。ひょっとして、浅野姉の方?」
 なにぃー!?
 「な、なんで?」
 白を切る。
 「や、いつもと声が違うかなって。ごめん。なんでもないや。」
 どうする?このまま思い違いだと思わせるか。それでもあたしは声は変えていた方がいいんだろうなー。季沙のことを考えると、ここは演技を通した方がいいんだろうけど、いや待て、今回のことを無事完遂したら季沙はまた同じ手段を使うだろうか。その逆はどうだろうか。
 「……。」
 「浅野?」
 「だー!ヤメだヤメ!なんだよなんで分かんだよー。わけ分かんねー。」
 「じゃあやっぱり。」
 「あーそーとも。あたしが沙季さんだ。文句あっか。つーかなんで分かんだよー。声高くしてたのに。」
 「ちょっと高すぎたから。」
 分かるかー!!
 「もうアンタ科捜研にでも就職しちまえよ!」
 「ちょっと、沙季ちゃん。」
 入り口の前で騒いでいると、その扉が開き、その人物があたしの名前を呼んだ。
 「あ、クロエさん。」
 性別女、見た目は若いけどておばちゃん口調で年齢不詳、北欧人のように色白で大和撫子のような長い黒髪、あまり見慣れない濃いブルーの瞳、達者な日本語、故に国籍不明、訊いても教えてくれない。唯一分かっているのは「くろえ」という呼び名だけ。名字なのか名前なのかはこれまた教えてくれなかった。その上この喫茶店の名前「ダフニス」は、モーリス・ラヴェルのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」から取っているらしいので、本名かどうかも定かではない。つまるところ正体不明なのだ。
 「あ、じゃないよ。入るの?入らないの?営業妨害はお断りだよ。」
 「入る。入ります。ホラ、アンタも来な。」


 「で、話ってなんなんさ?遠慮すんなや、ここでの払いだったらあたしが持つから。あー、因みにあたしは沙季だけど、季沙に話そうとしたことそのままでいいんだからね。あくまでも、いま、私は浅野季沙なんだから。」
 「……あのさ、浅野は――」
 「ストップ。」
 「なんだよ。」
 急かされて喋らされた上に遮られ、ややムッとした表情を見せる坂本誠。それを無視し、あたしはひとつの提言をする。
 「あたしのことは沙季って呼びな。もちろん、季沙のことも名前で呼ぶこと。アンタはもうふたりとも知ってるんだしね、浅野ってだけじゃどっち呼ばれたか分からんでしょう。」
 「じゃあ、今はなんて呼べばいいんだよ。」
 「は?」
 「今は浅野季沙なんだろ?」
 「沙季でいいよ。」
 「お前の言ってることが分からな痛って!なにすんだ!」
 「脛を蹴ってやった。あたしのことをお前呼ばわりなんざ五十億年はえー。」
 「はぁ。」
 「あ、ただし季沙のことを名前で呼ぶには、ちゃんとあの子の許可を取ること。いいね?」
 「分かったよ。」
 ため息混じりの返事にイラッとしたが、ここは堪えよう。いつまで経っても話が進まない。
 「で、何が訊きたいの?」
 「お前が遮ったくせに。いったッ!」
 「あ?」
 「沙季さん。聞きたいんだけど、いいですか。」
 「さんはいらない。敬語はやめろ。はいどうぞ。」
 「……えっと、沙季、はさ。」
 ここで言葉が詰まる。だんだんとこの男にイライラしてきた。季沙の頼みでなきゃ二度とご免被りたいくらいだ。そもそもあたしは昨日の中岡麻子との一件で季沙を傷つけたことを許すつもりはないのだ。たとえ季沙と結果的に恋仲になろうともだ。
 「沙季は、好きな人はいるのか?」
 「いるよ。」
 「……どんな人か、聞いても平気?」
 普通男子が女子にそーいうこと訊くか?てか、コイツ季沙にこんな質問するつもりだったんか。あたしが代わりに来て正解だったな。
 「ひとつ教えたげる。あたしは、アンタみたいに女心を弄ぶヤツは嫌い。」
 「弄ぶなんて、そんな。」
 「フツーはね、女の子の気持ちに男子が踏み込んでいいもんじゃないの。それを聞き出そうなんて、弄ぶ他なにがあんのさ。」
 「……。」
 「ふぅ。まーいーわ。それで?アンタはあの中岡麻子って子が好きなんでしょ?」
 「はっ?なんでそんなこと、まだ何も言ってないぞ?」
 心底驚いている様子だった。バカなのか、コイツは。
 「あのね。昨日のアンタの様子見りゃ、余程の木石でない限り分かるわさ。」
 「……そうか。」
 「はぁ。」
 今度はこっちのため息が増える番だった。要するに、悪い予想通りだったというわけだ。コイツは今日季沙に、中岡麻子へ対する恋愛相談を持ち掛けようとしていたのだ。
 「なんか面白そうな話してるじゃないかい。」
 デザートを置きながら嬉々としたクロエさんが割って入ってきた。ってあれ?
 「今日は頼んでないですよ?」
 「なーに。他人の恋バナより高い物はないってね。幸い他にお客はいないし、本日の営業は終了。遠慮なく続けな。」
 そう言われて入り口の表札を見ると、「OPEN」という文字がこちらに向いていた。もちろん普段の閉店時間よりも数時間早い。なんということだろう。この人はあたしらの会話に交じるために店仕舞いしてしまっていた。
 「んで、チミは名前なんてんだい?マコトくん?で、幼なじみのその子のことが好きなわけだ。ははーん。告っちまいなよ。」
 クロエさんてこんなに喋る人だったんだ−。普段は、口調はアレだけど物静かで、親身なお姉さんという感じだけど、坂本誠からいろいろ話を聞いて楽しそうに相づちを打っている様はまさにゴシップ好きなおばちゃんのようだった。
 「いや、あの。」
 坂本誠もたじろいでいる様子で、何かを言いたげだがクロエさんのマシンガントークに打ち消されてしまっている。
 「だって三年ぶりだっけ?それで再会したんだし、チミとしてはチャンスなわけじゃない。だったらさー。」
 「いや、だから、あの。」
 「うん?」
 「したんです。告白。……昨日。」
 「おー!」
 「……振られました。」
 「おーう。」
 沈黙するクロエさん。さっきまでのはしゃぎようといったらなかったが、今この瞬間からそれと対をなす程に黙りこくってしまい、挙げ句、
 「沙季ちゃん、ワタシ明日の仕込みがあるから、あとヨロシク。」
 あたしにお鉢を回してきた。
 「あー……。」
 どーするの!?この死んだ空気!
 「クロエさん、とりあえずコーヒーもう一杯。」
 呼ばれて、クロエさんはバツが悪そうに、音も立てずそーっと三杯目のコーヒーを持ってきた。
 「まーとりあえず飲みなよ。ホラ、砂糖とミルク。」
 さっきまでの悪態口調も、流石に柔らかくなるというものだ。
 坂本誠の手付かずだったカップを自分の方へ引き寄せ、新しい淹れたてのものを差し出す。
 すっかり冷めていたけど、あたしは構わず飲み干し、ヤツも砂糖を五杯、ミルクをひとまわり入れかき混ぜてから一気にのどに通した。
 「甘党?」
 「や、苦いのが苦手なだけで甘い物が好きってわけではない。」
 「そーなんだ。」
 で、なんの話をしていたんだったか。あー、恋愛相談だったな。
 「傷口を開くようで悪いけど、今日相談したいことってのは、中岡麻子に振られたことなん?」
 「それもある。実は、」
 それから坂本誠が話した内容と先程クロエさんに説明していたことをまとめるとこうだ。
 三年前、親の海外転勤に付き添いドイツに留学した中岡麻子。子供の頃から彼女のことを好きだったコイツは、その間も文通や電話でやりとりをしていた。そして今年三月、昨日話していた通り中等部転入のために帰国。両親は期間延長のため中岡麻子単身での帰還。唯一ドイツへ随行しなかった彼女の姉も、今は寮生活で自宅にはおらず、隣家である坂本家へ住まうことになったと。そして昨日、坂本誠の誕生日であったらしく、中岡麻子がそのプレゼントを渡したことをきっかけに思い切って告白するも、撃沈したと、そういうことだった。
 まったくもって、季沙に聞かせられる話ではないなと改めて思った。
 「で?あたしにどうしろと?」
 「なんで振られたか分からなくて。」
 知るか。
 「本人に直接訊けばいいじゃないのさ。」
 「聞いたさ。ただ、俺はそういうのとは違うって、それだけ。」
 恋人にするのとは違う?つまり、幼なじみとしての意識しかないということだろうか。あたしだとどうだ?確かに、愼は恋人というより腐れ縁、弟みたいなものか。姉弟、姉妹……、か。季沙のことが頭に浮かんだがすぐにかき消す。今はあの子は関係ないでしょーに。
 「幼なじみのままがいいってことじゃないの?あたしにも男の幼なじみいるけど、恋人の範疇にはないわなー。」
 幼なじみでなくても同じだが、それはまた別の話だ。
 「そういう感じなのか、女子って。」
 「男子だってひとそれぞれでしょう。付き合いが長いからその分、有効範囲外。割とあると思うよ。」
 「俺が変だったってことか。」
 「だーからさー。それぞれだって。また新しい恋すればいーじゃない。」
 「……ああ。割り切れたら、そうするよ。ありがとう。なんか、すっきりした。」
 「なんだよ、きもちわりぃ。」
 「素直に礼言ってるんだから素直に聞き入れろよ。」
 「はっ。どーいたしました。言っとくけど、今日の貸しはデカいかんね。」
 「覚悟しておくよ。」


 坂本誠が帰った後、あたしは本当の店仕舞いを手伝っていた。
 「悪いねー。お詫びに今日の分全部タダでいいよ。」
 「マッタクですよ。クロエさんたら最悪なタイミングで逃げんだから。」
 「うん。アレはマズかったと思ってる。」
 なら逃げんなと言いたいところだが。まー結果論、季沙にチャンスが回ってきたということが分かったので、良しとしよう。
 「ところでクロエさん、随分とキャラ変わりましたね。あっちが素ですか?」
 「どっちも素さー。ただし、本当のワタシなんてもんはとうの昔に遠い場所に置いて来ちまってるがねぇ。」
 「それって、」どういう意味ですか?と訊く前に、「野暮はお言いでないよぉ。」と遮られてしまった。ホント、謎が多い人だ。
 「それにしても沙季ちゃんが間接キスしたのには驚いたなぁ。」
 「え?」
 なんだって?間接キス?誰が、誰と?
 「だってホラ、マコトくんの冷めたコーヒー飲んでたじゃない。」
 「あれは手付かずだったし、せっかくクロエさんが淹れてくれたのにもったいなかったから。」
 「そんなことないよ。マコトくん、一口だけど飲んでたよ。」
 まてまてまてまて。そんなはずはない。えーと?よく思い出せ。アイツはコーヒーが運ばれてからしばらく無言で、あたしがヤツを急かしてから、ヤツは、……ヤツは。ヤツは!
 一口すすってた!!
 「クロエさん、水!ていうか水道貸して!!」
 あたしは口の中を何度も何度もゆすぎ、咽がかれる程うがいをした。
 この浅野沙季、一生の不覚だった。
 「やっぱあたし、アイツ大ッ嫌いだ!!」


posted by トキツネ at 18:00| Comment(0) | クローバー_B-side | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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